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1-2 求婚者

Penulis: 文月 澪
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-25 10:19:45

「急な話で、お前も困惑している事だろう。私も訳が分からんが、これは王家からの申し出だ。断る事はできん。お前も聞き分けてくれるな? ︎︎これは名誉な事なんだ」

 言葉とは裏腹に、父の顔色は芳しくない。行き遅れの娘が王太子妃になんて、社交界では恰好のネタだろう。それを父も分かっているのだ。伯爵家と王家では身分も釣り合わない。しかも王太子が御相手なのだから、末は国母となる事を求められる。父の昇格も有り得た。それをよく思わない諸侯もいるはず。

 現に宰相であられるハイウェング公爵には、御歳11歳のご令嬢、ユシアン様がいらっしゃる。このユシアン様が、王太子妃の最有力候補だったのだから、公爵にとって、降って湧いた私の存在は面白くないだろう。

 私の生家であるフェリット伯爵家は、王都カイザークから東に位置する山岳地帯を領土としている。平坦な土地が少ないために畑作には向かないけれど、特産品である紅茶や、林業で財を成し、武官としても王家に尽くしてきた。父は騎士団の分隊長だ。領地経営も順調で、父の誠実なひととなりも評判が良い。

 そんな伯爵家の娘が王太子妃になろうものなら、宰相の地位も危ういと感じるかもしれなかった。実際、宰相の評判は良くない。国王陛下のお言葉にも否定的で、政権を握ろうと暗躍していると、まことしやかに噂されていた。

 宰相は先代から世襲で受け継いだ地位なのだから、それも頷けた。俗に言う親の七光りだ。

 5代目である現宰相オードネン閣下は、先代が築いた富も食い潰しているという。それはユシアン様も例外では無く、いつも煌びやかなドレスを纏っていらっしゃるらしい。まだ11歳のため社交界にはお出でにならないから、私はお目にかかった事が無いのでなんとも言えないけれど。

 そんな宰相を敵に回すかもしれない今回の求婚。アイフェルト殿下は聡明なお方だというから、その辺りもご存知のはずなのに。

 困り顔で思案していると、父からまた突飛な言葉が飛び出した。

「そこでなリージュ。明日殿下がお前に会いたいそうだ。夜会前に仲を深めたいと。迎えを寄越してくださるそうだから、準備をしておいてほしい。ネフィには伝えているから、お前もそのつもりで」

 それにはさすがに私も声を荒らげた。

「そんな……! 明日だなんて、しかも王宮にでしょう? ドレスも準備が間に合いません!」

 けれど父は苦笑いを浮かべ、言いづらそうに口を開いた。

「それも、殿下が準備してくださっている。夜会用とは別にドレスを贈られているんだ」

 その言葉に、私は開いた口が塞がらない。どう考えても伯爵家には過ぎた待遇だ。本当に何をお考えなのか。これでは諸侯に贔屓と取られても文句は言えない。それとも、私にそれだけの価値を見出してくださってるのかしら。自分で言うのもなんだけれど、冴えない田舎娘なのに。

 話はそれで終わり、執務室を辞した私はよろめきながら私室に戻る。これからの生活に不安しかなかい。何故こうなったと考えながら私室に辿り着けば、そこにはネフィが待ち構えていた。長い栗色の髪をお団子にして、お仕着せのメイド服に身を包んでいる。勝気な瞳は。戦闘に赴くようにギラついていた。その隣にも、数名のメイドが控えている。

 ネフィは一歩進みでると、丁寧に礼をして残酷な現実を突きつけてきた。

「リージュ様。お話はお聞きになりましたね。これより、明日に備え身を清めていただきます。そこらの姫君に舐められないよう徹底的に磨き上げますから、ご覚悟を」

 そう言うと周りのメイド達に目配せして、手をわきわきとさせながらにじり寄ってくる。私は逃げ出そうとしたけれど、すかさず捕まり、浴室へと連れ込まれてしまった。

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